フリクリ オルタナ ネタバレあり感想

さて。ネタバレありの感想である。正直ネタバレに配慮するほどの内容では無いとも思うが、一応宣言しておく。

 

ネタバレなし感想はこっちで。

 

 

フリクリ オルタナは、正直言って期待していたモノではなかった。フリクリである、フリクリで無いの問題ではなく、劇場アニメーションとしての完成度が期待のはるか下だった。

 

女子高生4人組

ナオタくんを主人公に据えた旧フリクリが思春期入りたてから真っ只中にかけてだとすれば、オルタナの主人公は、思春期の終わりと向き合うキャラクターである。「毎日が毎日続いていかないこと」に気付きながらも、なかなか踏み出せない感じはとても良かった。4人のエピソードを通して、自分の身の丈を知って行く過程を描く方法もわかりやすかったし、好きだった。ただ、劇場の音量で女の子に騒がれると耳がキンキンして辛かった。さらに全体を通して言えることだが、ギャグシーンは席を立とうかと思うくらいつまらなかったし、だべるシーンもなんの意味もなくダベっているだけ。ナオタくんとマミミの会話のような、深くまで切り込んで行くようなものではなく、「毎日が〜」というテーマをなぞるだけの全く無駄な会話である。観客にテーマを繰り返し提示する意図があるのもわかるが。

 

足りない大人とハルコへのしわ寄せ

思春期の出口の前で足踏みする主人公たちを導くキャラクターがいなかったことも残念だった。旧フリクリには、魅力的な大人がたくさん登場した。ナオタよりも一歩大人に近いマミミ、干渉せず見守る姿勢を見せるカモン、大人になろうとするアマラオなど。それぞれ立場を持ち、別々の方向からナオタを見守っている彼らの存在があったからこそ、ハルコの奇想天外ぶりが際立ったわけだし、彼らがいたから、ハルコは特別な存在になれた。

しかし、オルタナには、主人公達を導く大人がハルコの他には登場しない。入国管理官は意味深なことを言うだけの蕎麦屋の常連だし、蕎麦屋の親父はバイト先の店主止まりだ。主人公の両親と学校の先生はモブでしかない。その結果、子供を助けるヒーローも、アドバイスをする役目も、めちゃめちゃな捜査官としてのキャラクターも、全部ハルコがやるハメになった。だからオルタナのハルコは、旧フリクリのハルコとは全く違うキャラクターになってしまったのだ。

 

ハルコの目的と行動

ハルコの初登場シーンはなんだ。ベスパで蕎麦屋のガラス戸を突き破るくらいして欲しかった。あんなに普通に出てきて、ギターで殴りもしないなんて。因果応報気味にカメラマン学生を殴ったり、コンテスト優勝者を蔑ろにするようなステージをやったり、冷や汗が出るようなラップを始めたり。オルタナの脚本を書いた人はフリクリ見たことがあるのか? 

そもそもハルコは、界賊王アトムスクを捕まえるために地球にやってきたキャラクターだ。強力なNOを探すのも、その持ち主を焚きつけるのも、全てアトムスクのためである。なのに、オルタナでの彼女はそんな様子を全く見せない。突然やってきて、地球を救うためだけに行動しているように見えた。アトムスクの鎖が腕に無いし、まだアトムスクと出会う前の話だったからかもだけど……

 

音響と劇伴

まず音響。ギターで殴る時のあのSEをなぜ使わなかったのだろう。エヴァでATフィールドのSE使わないくらい意味がわからない。キャラクターの声、音楽、SEのバランスもなんとも言えなかった。音楽だけのシーン、セリフだけのシーンをもっと作って、緩急をつけて欲しかった。ずっとうるさいせいで、うるささに慣れてしまって、アクションシーンの迫力が無くなっていたと思う。

劇伴については、もっとピロウズを流して欲しかった。せめてONE LIFEかパトリシアは聞きたかった。旧フリクリのように、全BGMをピロウズにするくらいでちょうど良かったと思う。エンディングでライドンが流れなかったのも残念だったし、ラストダイナソーの所はいまいち盛り上がれなかった。

 

掘り下げの少なさ、設定のテキトーさ

まず、ハルコはなんのために地球に来て、なぜ地球にこだわっていて、どうしてプラントを止めたいのか。それが最後までわからなかった。

主人公のカナブンが友達にこだわる意味、お節介すぎるほどに干渉する理由も、最後の最後に一瞬点滴したカナブンが映るだけ。お節介焼きな性格ってだけじゃダメだったのだろうか。あの一瞬で、カナブンの魅力が失われてしまった。

ひじりともっさんに関しては、ひとブロック分使ったので描き切れていたと思う。

ペッツ。家族については唐突すぎたし、匂わせる描写はあったが足りなかった。お節介すぎてウザいのセリフも、それを匂わせるセリフもシーンもないのに突然怒鳴り始めて驚いた。2人が小学生からの付き合いだという設定も、5話冒頭に急にちょろっと出ただけ。

キャラクター達の掘り下げが足りないのに、大好きとか叫ばれても困る。こんな話がしたいなぁ。じゃあこの子はこの設定で行くか。あ、このエピソードやるにはちょっと設定足りないから、足すか。これくらいフォロー入れとけば納得するでしょ。というテキトーさが気にくわない。テキトーなのはキャッチコピーだけにしてほしい。

 

小物小ネタの扱い

ひび割れたスマホと絡まったコード、音楽を選ぶスマホの画面いっぱいに映されるピロウズのアルバムのジャケット、ハンカチ、ペン、髪留めの交換。ケバブの肉で攻撃など、小物の扱いはうまかったと思う。BJ、スラダン、エヴァ、トップ2などの、小ネタのはさみ方もさりげなく小気味良くて好きだった。

 

全体を見て。

作画に関しては、週アニメの気合が入っている回くらいの出来だった。劇場版なんだからもっと頑張って欲しかった。戦闘シーンも、戦い方やカメラワーク、演出に目新しさがなく、ただふつうの戦闘シーンだったのも残念だ。

キャラクターもそうだし、音楽もそうだ。週アニメ程度の出来のものを、わざわざ映画館まで見に行ったのだ。フリクリの名を冠した、ただの青春アクションコメディだった。決してつまらなかったわけではないが、今ひとつだった。

ハルコが登場して、ピロウズが流れて、思春期を扱っていればそれはフリクリと言えるのか? 旧フリクリを何回も見ているほど、好きであればあるほどがっかりする。そんな出来だったと思う。何度か見れば、もしかしたら印象が変わるのかもしれない。私の見落としが、考察の甘さが、思い込みが、オルタナをダメにしているのかもしれない。むしろ、そうであって欲しいと心から願う。プログレも見に行くつもりにしているが、不安と期待の、不安の比重が重くなった。

しかしネタバレなし感想にも書いたように、これが「イマドキのフリクリ」であるのも事実である。フリクリは定義できないが、フリクリであると自称するなら、もう少しちゃんとしたものを作って来て欲しかったというのが、率直な感想である。